※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。

女性として史上初のアカデミー監督賞を受賞したキャスリン・ビグロー。

しかも元夫はジェームズ・キャメロン。

そんなキャスリン・ビグローがアカデミー監督賞を受賞した作品が『ハートロッカー』だ。

イラク戦争をテーマにした戦争映画なのだが、従来の銃撃戦などではなく「爆弾処理班」がメインで描かれている。

爆弾処理がメインに展開する戦争映画は今までになく、爆弾解体の様子も非常にリアルで、最後まで引き込まれてしまう。

また、ボクもそうだが、きっと疑問に持つ人も多いと思われる「爆弾処理」について。

爆弾処理を行う人は、一体どんなモチベーションで行っているのか?

こんな命がけの事、「普通」は出来ない。失敗すれば死あるのみだし、スイッチが敵の手に委ねられている点もリスクだ。

なぜ、そんな危険な仕事ができるのか?

国への忠誠心か?仕事としての誇りか?英雄になりたいからか?それとも・・・

そんな爆弾処理班メンバーのそれぞれのモチベーションが描かれている点が素晴らしい!

終始恐怖を感じている者。

国への忠誠心で動く者。

そして、スリル中毒になってしまった者。

本作『ハートロッカー』の主人公ウィリアム・ジェームズ一等軍曹は残念ながらスリル中毒として描写される。

873個以上の爆弾を解体したとんでもない人物だ。

それだけの危険を体験していれば、普通の精神状態ではいられなくなる。

ギャンブルでいうと873回勝ったようなものだ、カイジ並みのジャンキーである。

この様に、戦争によって壊れてしまった主人公の精神を描く反戦映画なのである。

 

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ベッカム少年が主人公の精神を左右する

物語の中盤になると、アメリカ軍基地でDVDを販売するベッカムと名乗る地元の少年が現れる。

人懐っこい性格で、アメリカ軍相手にお小遣いを稼いでいるのである。

そんなベッカムを可愛がる主人公ジェームズ。

DVDが不良品でも怒らないし、一緒にサッカーをやったり、本当に可愛がっている。

ここが人間としてのジェームズを描き、視聴者を引き繋ぐ重要なシーンである。

そんなある日、敵のアジトの中で人間爆弾された少年を目撃するジームズ。

その少年をベッカムだと思い込んでしまうのだ。

このシーンでは、戦争の悲惨さや、テロリストの残虐性、結局はどの少年も同じ顔に見えてしまう哀れさ、また自分を狙ったものだと思う妄想など、様々なメッセージが盛り込まれている。

そして、結局はベッカム少年は生きていて、再び無邪気な笑顔でDVDを売りつけようとする。

そんなベッカムを無視するジェームズ。

ベッカムへ抱いた感情によって危険な目にあったり、また、危険な目に合わせる可能性もあるからか、無視をするのである。

そして、ラストは爆弾を巻き付けられた一般人の爆弾解体。

残り時間も少ない中、ベストをつくすが、最後は「すまない」といって非難する。

爆発に巻き込まれたジェームズであったが、この時何を思ったのか?

 

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リアルな銃撃戦

砂漠の中で銃撃戦が繰り広げられるのだが、これがかなりリアル。

ドンパチ派手な銃撃戦ではなく、地味な戦いをあえて描いているのだ。

例えば、弾がなくなり新しいものを仲間に求めるのだが、負傷者の血が付いていて打てない。

その血を落とす為に唾をかけて磨くのだが、こんな細かい描写が今までの戦争映画にあっただろうか?

さらに敵を倒した後も、死んだふりや、隠れている者はいないか?を確認する為に数時間同じ姿勢でいるのだ。

決して派手な銃撃戦ではないが、こういったリアルな描写が凄い。

 

シリアルが選べない衝撃の結末

この様に、死と隣り合わせの日常を送ってきたジェームズだったが、やっとアメリカに帰れる日が来た。

一応離婚している女性と、子供との生活が始まる。

そんな中、一緒に買い物にいくのだが、「シリアルを買っておいて」と彼女に言われるジェームズ。

目の前には大量のシリアルが並んでいる。

爆弾解体は朝飯前のように行っていたジェームズだったが、なんとシリアルを選べなくなっていたのである。

つまり普通の生活ができなくなっていたのだ。

また、子供には「大人になると大切な物は1個くらいしかなくなってしまう」と語る。

そのジェームズが大切にしている1個とは、爆弾解体で残った部品である。

その部品を大切に持っているジェームズ。これは狂気を表しているわけだ。

戦った相手の一部を大切に持ち歩いているようなものである。

そして、また別の戦場へ向かうシーンで幕と閉じるのである。

冒頭で表示される「戦争は麻薬のようなものである」というのが頭の中で鳴り響くのである。

 

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