※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。

「黒人差別」「奴隷制度」を題材にした映画は結構あるが、アカデミーを受賞したのはこの映画だけ。

なぜなら、他の映画はこの手のテーマを扱うと対立する白人を悪く描かなければならないからでる。

アカデミー賞の審査員は約6600人いるが、その中で黒人の割合はどれくらいだろうか?

白人を悪く描く限り、受賞は難しいのである。

しかし、この「それでも夜は明ける」はついにアカデミー賞を受賞した。

実話を元にしているが、要所要所で「白人=悪」をずらしているからである。

その顕著が、ブラットピットの登場である。

 

物語の後半で、主人公ソロモンはカナダ人のバス(ブラットピット)に出会う。

ブラットピットは奴隷制度撤廃の思想を持つナイスガイだ。

このブラットピットの出現により、主人公ソロモンは助かるのである。

このラストに白人が黒人を助けることにより、絶対悪である差別・奴隷が自然と緩和してしまい、白人を傷つけずに物語が収束するのである。

つまり、なるべく白人が憎まれないように演出された映画なのだ。

 

※ちなみに、監督のスティーブ・マックイーンとブラットピットは昔からお互いを尊敬しており、奴隷制度の映画にブラットピットが興味を示してくれての登場となった。もしブラットピットが出演しなかったら資金が集まらなかったので、映画が作れなかったらしい。ブラットピットの友情が生んだ作品なのである。

 

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悲惨な歴史に向き合う

この映画は家庭で楽しむというより、学校でみせるべき映画だと思う。

絶望の中でも、希望を諦めない主人公ソロモンは感動的だが、それが霞むくらい奴隷制度は悲惨だ。

特に実際にあったであろう「ムチ打ち」はトラウマになってしまう人も多いと思う。

実際ボクも見終った後、背中が痛くなった。

それくらいの臨場感で描かれていて、胸が痛む。

 

アームスバイは白人への皮肉

物語の途中、アームスバイ(ギャレット・ディラハント)という白人が登場する。

アームスバイは農園の監査官だったのだが、アル中になってしまい奴隷と同じ扱いになってしまったのだ。

なぜアル中になってしまったのか?

それは、監査官として奴隷をムチ打ちするのが辛かったからである。

結局は心が痛かったのだ。

そこで、酒を飲まなければやってられない状態になり、不祥事を起こしたわけである。

そんな話を聞いて、人としての心を持つアームスバイをソロモンは信用する。

今まで貯めた金貨を渡し、手紙を投函するように頼むである。

しかし、アームスバイは結局裏切る

その事を主人であるエップスに告げ口するのである。

それによって、自分を元の監査官に戻してくれと交渉していたのだ。

でも結局はソロモンが機転を利かせ、難を逃れるである。

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このアームスバイというキャラクター、かなり重要な役割がある。

主人公を白人不審にし、最後のブラットピットを際立てる効果が主な役割なのだが、実は監督が本当に表現したかったのは別のことだと思う。

それは「結局、人間は自分勝手」ということである。

 

アームスバイは「ムチ打ちに心が痛む」と言っていた。

これは本心だろう。

このシーンで嘘をつく必要はないからである。

 

しかし、金貨を手にし、奴隷の不祥事を密告し自分の手柄にできれば、という欲が勝ってしまったのである。

 

ここで冒頭に説明したアカデミー賞の話を思い出してもらいたい。

今まで「黒人差別」や「奴隷制度」の映画はたくさんあった。

しかし、アカデミー賞には届かなかった。

 

なぜなら「可哀想だとは思うが、それを認めると自分が傷つく」からだ。

自分達(白人)が悪者になってしまう。

 

そういう意識にならないよう、スティーヴ・マックィーン監督はブラットピットを重要な役に配置し、ラストをむかえるのである。

しかし、途中アームスバイによって本心を見事に表現できていると思う。

 

ただ、戦争を経験していない者が戦争を語れないように、この映画を日本人が語るのはおこがましいと思う。(もちろんボクも)

 

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