※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。

ポスターから「宇宙人モノ」というイメージであったが、いやいやとんでもない作品だ。

もちろん宇宙人(エイリアン)も丁寧に描かれていてVFXも見事だ。

しかし、この『第9地区』の凄いところはエイリアンを「弱者」の立場で描いた点であろう。

舞台は南アフリカであり、人種隔離政策であるアパルトヘイトが題材となっているのだ。

エイリアンを弱者に描き、人間はエイリアンを「エビ」と呼び蔑み差別をするのである。

そして、アパルトヘイト時代に実際に起きた強制移住政策をエイリアンにもするのである。

しかし、ここで面白いのがエイリアンにも一応の「人権」があることであろう。

強制移住に必要なエイリアンのサインを1人1人もらわなければならないのである。

こういった重いテーマの中にバランス良くコメデイを入れ、またニクいことにそれをドキュメント風に撮影するもんだから見事である。

 

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あらすじ

ドキュメントの主役が主人公ヴィカス・ファン・デ・メルヴェ(シャールト・コプリー)。

ヴィカスはエイリアンを管理する国家組織(MNU)で働く職員であり、妻はMNUの幹部の父を持つ。

そんなMNU幹部の義父の任命によって、エイリアンから強制移住のサインをもらいにヴィカスを行かせるのである。

この任務を成功させれば出世間違いなしなのだ。

そして、エイリアンが生活している第9地区へと向かうのであった。

融通が利くタイプのヴィカスはスムーズにエイリアンと交渉していく。

他の連中と違い、高圧的になることもなく、うまくエイリアンと話を進めていく。

そんな中、あるエイリアンの住まいで奇妙な容器を見つける。

慎重に取り扱っていたのだが、急に黒い液体が噴出し、ヴィカスの体にかかってしまうのであった。

すると、どんどん体に異変が起こってくるようになってしまう。

最初は嘔吐だけだったが、だんだん爪がはがれ、エイリアンの手のようになってしまう。

このシーンは、まるで『ザ・フライ』のように衝撃的である。

 

全ての人間が利己的に描かれている

そしてこの『第9地区』の最も凄い点は、全ての人間が利己的に描いていることだ。

ヴィカスのエイリアン化に気付いたMNUは国家組織にも関わらず実験の道具に利用するのだ。

また、エイリアンの武器が使えるようになったことから、武器の威力などもヴィカスを使って実験するのである。

そして、その実験には生きたままのエイリアンを使ったりするという非道っぷり。

まるでモルモットのように、生きたエイリアンを平気で利用してしまうのだ。

そして、政府と敵対するギャング軍団も同じくらい利己的である。

エイリアン化が進むヴィカスをみて、その手を食べることで自分もエイリアン化できると呪術的に思い込み、ヴィカスを拉致するのだ。

また、キャットフードが好物なエイリアンに対してビジネスを行い、ぼったくりながら大金を得ている。

そして、義父。

ヴィカスは娘の夫なのに、エイリアン化に気付くと、実験道具としてしか見れないである。

さらに、主人公ヴィカスも自分が助かる為に、友好的なエイリアンであるクリストファー・ジョンソンを裏切る。

このように、主人公も含めてすべての人間が利己的で残忍な描かれ方をしているのだ。

 

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ラストは映画史に残るほど切ない

クリストファー・ジョンソンが宇宙にもどり、ヴィカスの体を元に戻すために戻ってくる期間は3年。

この辺の「裏切り方」も凄い。

通常の映画では、苦難を乗り越えゴールに辿り着けば願いがかなうように設定されている。

だからこそ、ラストでいかにヴィカスの体が普通の人間に戻るのかを期待するのだが、3年という絶望的な時間が必要となってしまうのだ。

しかも、ひょっとするとクリストファー・ジョンソンは戻ってこないかもしれない。

そんな感じで、『第9地区』は直接的なハッピーエンドを見せない。

ただ、しっかり希望も持たせている点が素晴らしいのである。

ラストシーンでは全身がエイリアン化してしまっているヴィカスが映し出され、非常にショッキングなシーンで幕を閉じる。

しかし、そこには妻の為に花束をスクラップで作る姿が映し出され、元の生活へ戻る希望を持ち続けているヴィカスがいるのであった。

 

トカゲのおっさん

実はこの『第9地区』と同じコンセプトの作品がダウンタウンの過去の番組にある。

それが「ごっつええ感じ」のトカゲのおっさんである。

こちらは、体の半分がトカゲ、もう半分は人間(おっさん)という数奇な運命を持つ人間(?)の物語だ。

その姿から様々な差別を受け、また人間の醜さによって利害の道具にされたりする。

こちらは何回かのシリーズ化となり、トカゲのおっさんが人間不信になりながらも力強く生きていく話である。

人間の持つ、偏見・差別・排他主義・裏切りなどが、うまく表現されており、それをコメディと組み合わせた傑作コントだ。

こういう意味で『第9地区』と『トカゲのおっさん』はコンセプトがほとんど同じなのである。

そして『第9地区』よりも20年近く前にこのテーマを扱った松本人志の発想力は、やはり天才的だと思う。

 

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