※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。
ヒア アフター(来世)というようにスピリチュアルがテーマの本作。
テーマがテーマだけに解釈も難しい。
しかも監督は天才クリント・イーストウッドなのだから、単なる「あの世」の映画ではない。
「ヒア アフター」が議論される点は「ラスト」である。
ここからネタバレになるが、ラストでジョージ・ロネガン(マット・デイモン)とマリー・ルレ(マリー・ドゥ・フランス)が良い感じになって終わる。
相手の過去を見てきたジョージが、自分の未来を見るという形でフィナーレを迎えるのだ。
ここで重要なポイントが『握手』だ。
ジョージは、手が触れるだけで相手の過去を霊視していしまう。
だからこそ、接触をなるべく避けて生きてきた。
この能力を「呪い」と呼び、自分の人生に対して失望していたのである。
確かに触れただけで、相手の過去が見えてしまったら辛い人生になりそうだ。
料理教室で、せっかく良い仲になったメラニー(ブライス・ダラス・ハワード)もこれが原因で別れてしまう。
ジョージは、自分の人生を変えるべく料理教室という新しいことにチャレンジしたのに、結局はこうなってしまうのだ。
そりゃ失望する。
そんな中、ロンドン国際ブックフェアにて偶然マリーと出会う。
マリーは、臨死体験から「あの世」についての本を出版し、朗読会を行っていたのだ。
自分が霊視する世界と似ている体験を語るマリーにジョージは興味を抱き、本を購入するのだった。
その時、たまたま触れた手によって、マリーが本当に臨死体験をしており、自分と同じ世界が観える人と始めて出会えたことになる。
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「雷」とラストの関係
この映画、「雷」の出現率がかなり多い。
わざと「雷」の音を多用している。
「雷」は当然『隠喩』であり、そのメッセージは当然『手が触れたときの霊視』である。
作品中でもジョージが霊視の為、手を触れる瞬間『ビリッ』という電気のような音が鳴る。
ジョージが他者に触れることに対してのインパクトを、視聴者の無意識に刷り込んでいるのだ。
『人に触れるのは霊視してしまいヤバイぞ』と。
この辺テクニックは、さすがアカデミー常連である。
ジョージが人と触れないか?視聴者はドキドキしてしまうのである。
これを『雷鳴』という音を使って刷り込むのだから、やっぱり天才だ。
では、なぜこの『雷鳴』の刷り込みが必要だったのか?
それがラストである。
ラスト、ジョージはマリーと握手する。
しかし、この時、電気は、鳴らない・・・
それは、『呪いの解放』を意味する。
視聴者が雷鳴から解放されたように、ジョージも霊視という呪いから解放されたことを意味するのだ。
この為に、コツコツ、コツコツ、雷の音を積み重ねてきたのだ。この天才監督は。
また、マリーと握手をする前、『未来』を見る。
そこでは、マリーとキスするシーンが展開される。
しかし、そのキスシーンはとっと過ぎ去り、二人が手を握り合っているシーンがアップされるのである。
う~、さすが天才!
なぜ、ジョージはマリーを好きになったのか?
もう一つ解り難いのが、なぜジョージがマリーを好きになったか?である。
サイン会で手に電流が走ったから?(笑)
もちろん違う。
マリーは臨死体験後、そのことを本にした。
全ての地位を捨ててまで。
このテーマを語ることがどれだけ孤独な事か?1番知っているのはジョージである。
小さい頃から呪い(霊視)によって、友情が壊れたり、恋人とうまくいかなかったり苦しんできたからである。
表立った行動をすれば、偏見と中傷により、さらに苦しむことになるのだ。
だからこそ、ジョージはホームページの運営を止めたし、活動自体を止めたのである。
しかし、マリーはどうだ?
有名人であり、立場もあるのに、このテーマについて深く考え、苦しみを恐れずに進んでいるではないか!
こういった彼女の勇気に、ジョージは惹かれていくのである。
ただし!これは単なる大義名分。
本当はもっと緻密な繋がりがあるのである。
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マーカスを励ます為に嘘をついたのか?
双子であるマーカス/ジェイソンは、この映画の重要なヒントとなっている。
まず、マーカスの為に優しい嘘をついたという方もいるが、さすがにそれはない(笑)
このマーカスの霊視で、最も重要なのは・・・
霊視の前に、マーカスが「彼女が好きなの?」とジョージに言ったことだ。
ここに気づくとすべてのパズルがハマる。
これ、ちょっと違和感を感じるシーンだ。
だって、ジョージがマリーと親しくしているシーンなんてないし、なぜそれをマーカスが感じたのだ?
しかも、ジェイソンを霊視するというマーカスにとって重要なタイミングで?
さて、マーカスの霊視に話を戻す。
ジェイソンはマーカスに「独り立ちしろ」と励ます。
そして「帽子で危機を救ったのは最後だぞ」と優しく伝える。
ここ!
マーカスが地下鉄テロに合わなかったのは、ジェイソンの帽子の導きである。
つまり、ジェイソンは未来が見えたのだ!
そして、この霊視によってジェイソンが最も言いたかったことは?
マーカスと一卵性、二人で一人ということ。
それは、つまり・・・
マーカスにも未来を見る力があったということである。
だから、マーカスはジョージがマリーを好きになることを知っていたのである。
だからこそ、マリーの宿泊先を調べ、ジョージに電話したのだ。
ジョージはラストになぜ未来がみえたのか?
ここまでのことでジョージがラストで未来をみた理由がわかったと思う。
マーカスを霊視することで、呪いも封印されていくのだ。
それはどこか?
ジェイソンは、マーカスに「もう一人じゃない」と伝え、「もう戻る」といって見えなくなった。
それは、つまり霊視の終焉を意味し、ジョージ自身「一人じゃない」ことをマリーと会うことで気づくのだ。
その代わり、今度は少し先の未来を見る能力に切り替わったのである。
これは、能力というものではなく、『未来を望む』という表現の方が近いのかもしれない。
そして、それは人に触れることは関係なく、過去をみるという呪いからの解放を意味する。
ここは詳しい描写はないが、過去を見る霊視ではなく、明るい未来がみえる(望む)ようになったのは間違いない。
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手紙の内容はどんなだったか?
マリーは自分の体験が半信半疑。
だからこそ、色々な資料を集め、信憑性の高い本を書こうとした。
ただ、それでも100%確実ではない。
なぜなら、死後の世界は誰にもわからないからである。
だからこそマリーは臨死体験に対して少し自信がない演技を後半でしている。
協力者のルソー博士も言うように、このテーマは孤独な戦いだからである。
そこで、ジョージはマリーに手紙を送る。
サイン会で霊視したことで信憑性を伝え、自分がこれまでしてきた体験を伝えたのであろう。
マリーは手紙を読む間、笑顔になっている。
これはジョージのユーモアが面白かったのか?それとも半信半疑だった自分の臨死体験が、間違いなかったことへの自信を取り戻したことか?
自然なのはもちろん後者である。
まとめ
この映画は「そう来たか!?」が結構多い映画であり、それはやはり監督の能力の高さが生み出すエクスタシーだ。
『過去に縛られる人生からの脱却』というテーマに行きつくが、双子の役割が非常に大きく、過去→未来へ繋ぐ重要な役割となっている。
『雷鳴』と『マーカスの予言』でラストの解釈が導きだされる瞬間は、まさに稲妻が走る瞬間なのである。
そして、ヒアアフターの意味が『来世』から『ここから』に変わるのだ。
こんなラストは、天才にしか作れないであろう。
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