※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。

横山秀夫といえばサスペンス作品が多いのだが、本作『クライマーズ ハイ』は日本航空123便墜落事故を題材としたヒューマンドラマである。

よって、「誰が犯人で」とか「どんなトリックで」とかいう話ではない。

しかし!横山秀夫のシビれるようなサスペンスを期待している人でも確実に満足できる作品となっている。

まず、舞台は地方新聞社。

そして、この日本航空123便墜落事故を取材する新聞記者たちの奮闘がリアルに描かれている内容だ。

もともと横山秀夫は12年間記者をしていた経歴があるので、この辺の臨場感は半端ではない。

この前代未聞の大事故を、新聞社はどのような状態で日夜取材していたのか?

混沌とした社内で、みんなが極限状態になっていく様子が見事に描かれているのである。

 

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あらすじ

群馬県の地方紙である北関東新聞社で働く主人公の悠木和雅(堤真一)。

映画では描写はないのだが、原作では部下を交通事故で亡くしており管理職になることを辞退し、担当する特定の持場のない遊軍記者として働くスタイルをとっている。

同僚のほとんどが管理職となっており、浮いた存在という状態になっているのであった。

そんなある日、共同通信から速報が入る。

「日航ジャンボ旅客機が行方不明」と・・・

この大事故の全権デスクを任されたのが遊軍記者である悠木。

なぜ社長は全権を悠木に任せたのか?など、様々な「引き」が生まれてくる。

 

ラストでなぜ発表を中止にしたのか?

この作品の目玉は、ラストの発表見送りであろう。

墜落事故から数日が経って、新たに出てきた事実「墜落原因ネタ」。

このネタが確かであれば、この新聞社が始まって以来の大スクープとなる。

他の新聞社に気づかれないように、ごく一部の人間だけに伝え慎重に取材を進めていく悠木。

裏付けを取るために佐山(堺雅人)を走らせる。

いよいよ確信が持てるようになってくると、犬猿の仲だった部長である等々力(遠藤憲一)も味方になる。

締め切りは間近、この大スクープを発表するかどうか?最後の判断に迫られる悠木。

職場は極限状態となっており、この大スクープに皆高揚している。

そして、ギリギリのところで佐山から電話がかかってくるのである。

100%に近いのだが、完璧なウラは取れていない。

そこで悠木が下した決断は「見送り」だった。

この大スクープを見送ってしまったのだ。

そして、翌日、この大スクープは他社が掲載していた。

「なぜ、見送ってしまったのか?」責められる悠木。

そして退社をしてしまうのであった。

退社する覚悟があったのであれば、載せた方がよかったのでは?と視聴者は思うであろう。

しかし、あの見送りに意味があったのだ。

それがクライマーズハイである。

疲れがたまり極限状態になると、恐怖感が麻痺してしまうのだ。

今回の大スクープを発表するかどうか?の時、職場の全員クライマーズハイだったのである。

悠木1人が責任をとって、載せることもできたかもしれない。

しかし、悠木は会社のリスクマネジメントを優先したのであった。

中盤で、悠木に対しての扱いに疑問を持つ玉置千鶴子(尾野真千子)。

悠木にこう聞くのである。

「北関東新聞社を辞めたいと思ったことはないのですか?」

すると悠木はこう答えるのである。

「一度もないね」

しかし、職場のクライマーズハイを回避するため、「見送り」という汚名を被り、会社を辞めていくのだ。

このシーンが、本来は管理職になるべき男だったという余韻を残し、遊軍記者としての誇りなど様々な感動を生み出す。

そして、墜落当時、一緒に登山に行こうとした友人安西(高嶋政宏)の言葉がこだまするのだ。

悠木「なぜ、山に登るんだ?」

安西「下山するためだよ」

 

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