※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。

こういう作品に出会えた時は幸せを感じる。

ハッ!と驚かせるような出来事も、社会に対して物申すような問題提起もなにもない物語。

ゆったり流れる時間。

だけど、なぜか目が離せない。

この不思議な魅力にとりつかれ、作品の中のお客のように「かもめ食堂」のファンになってしまうのである。

 

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個性的だけど個性的ではない

何の衝突もなく、最後まで飽きずに観られるカラクリは、当然キャラクター設定のなせるワザである。

主人公であり、かもめ食堂のオーナーであるサチエ(小林聡美)は芯がなさそうで芯があるキャラクターだ。

思いつきで人にアドバイスしたり、思いつきでフィンランドで食堂を営業したり、破天荒にも映る。

しかし、メニューに妥協がなかったり、お客様第一号に対してコーヒー永久無料を行ったり、鼻につかないポリシーを持っているのだ。

このバランス感覚が絶妙であり、特に感情移入させるイベントもないのに応援したくなってしまうのだ。

そして、主人公サチエのパートナーとなるミドリ(片桐はいり)も、これといったものは無いのだが、なぜか応援したくなる。

片桐はいりの自然な演技も素晴らしく、フィンランドを訪れた核心的な理由は描かれずとも最後まで気にならないのは流石である(笑)

たまに入れてくる「ムーミンネタ」も心地よいアクセントとなる。

「知っているようで知らないことが多いですよね」という台詞を数回言うが、少し鼻につくタイミングでピタリと言わなくなるセンスが凄い。

最後はマサコ(もたいまさこ)。

空港で荷物を紛失してしまい、路頭に迷う中、かもめ食堂へ訪れる。

ただ、このマサコが登場することで、若干波が立ってしまう印象があり、ボク的には必要性を感じなかったキャラだ。

荷物の中身についての解釈はそれぞれであるが、最後にこういった「問題提起」を出すことでせっかくの雰囲気が壊れてしまい残念に思う。

 

食堂を繁盛させる物語でもない

この映画の凄い所は、サチエとミドリが偶然出会い、食堂の繁盛に繋がるのか?と思わせておきながら、サチエ本人はかなりのんびりに構えている所だ。

ミドリがどんどんアイディアを出して、「かもめ食堂」が大成功する映画ではない。

それぞれのキャラが、淡々と生きる姿を描くところが絶妙なのである。

サチエはお客さんが来なくても焦る様子をみせず、ミドリもマイペースにフィンランドを楽しむ。

お腹がすいたら、自分達でおにぎりを作り食べる。

思いつきでシナモンロールを作り、それがきっかけで繁盛していく流れも興味深い。

日本映画特有の「詰め込み過ぎ」もなく、淡々とした時間を過ごせる素晴らしい映画である。

 

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