※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。
エンターテイメント路線ではなく、ドラマ(マフィアドラマ)というカテゴリーでここまで引き込まれる映画は他にないであろう。
まさに傑作中の傑作が『ゴッドファーザー』なのである。
登場人物の細かい表情の変化、ささいな言葉全てに意味があり、それを感じ取ることでパズルがどんどんハマっていく。
また、本作『ゴッドファーザー』は、物語の展開、裏社会の世界、家族愛、世代交代、裏切り、失望、決意などなど、様々な感情を大きなうねりと共に演出していく。
それは言葉による演出もなければ、映像的な表現も少ない。
怒涛のように押し寄せる名画のようなシーンをヒントに、自分で考察していくしかないのである。
なので、この作品は抽象度が高い。
だからこそ、観る年齢によって感じ方は大きく変わってくるはずだ。
後で観かえしてみると、気づかなかった点や、各キャラクターの心理状態などが違って見えてきたりする。
これらは全て監督の狙いであり、計算尽くされた芸術なのである。
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簡単なあらすじ
主人公であるドン・ヴィトー・コルレオーネ(マーロン・ブランド)はニューヨーク市郊外の高級住宅街に住むマフィアのボス。
3人の息子と1人の娘、そして家族同然の弁護士トムがいる。
長男ソニーは女好きで、短気な性格ではあるが、度胸は備わっている。
二男フレドは気弱で、騙されやすく、頼りなく描かれている。
三男マイケルはインテリで争いごとに距離を置くような第一印象だったが、父の銃撃や、ソニーの死などによって、マフィアとしての資質がどんどん覚醒していく。
長女コニーはカルロと結婚し、幸せの絶頂。しかし、そのカルロの正体は…
簡単にいうと、このファミリーが『薬物ビジネス』という黒船によって翻弄されていく物語である。
マフィアの話なのに、なぜ共感できるのか?
主人公であるドン・コルレオーネファミリーは、かなり残忍だ。
例えば、身内同然である人気歌手ジョニー・フォンテーンがプロデューサーの圧力によって映画に出れなくなってしまった。
プロデューサーが大切に育てていた女優の卵に、ジョニーが手を出してしまったからだ。
しかし、そんなのおかまいなしにプロデューサーを脅迫する。
それが有名な『馬の生首』である。
プロデューサーが朝目覚めると、ベットの異変に気づく。
シーツをめくってみると、馬主である自分が飼っている馬の生首が置いてあるではないか!
これによりジョニーは映画に出演できるようになったのである。
かなり悪どい描写であり、マフィア映画なのはわかるが、通常はこの辺で心が離れてしまう。
いくら家族愛があったり、身内に優しくても、これではただの悪党だ。
しかし、なぜ最後まで見続けることができるのか?
それは『薬物ビジネス』をドン・コルレオーネが嫌っているからだ。
これがドン・コルレオーネへの共感を保つものであり、そして、これにより物語が展開していくのである。
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ソニーの一言で組織崩壊の危機に…
『薬物ビジネス』を嫌っているドン・コルレオーネだが、タッタリア・ファミリーなど他の勢力の状況を把握するため会談に応じることになる。
この時のドン・コルレオーネの置かれている状況は、政治家との太いパイプがあるが、薬物に手を出さないのでビジネス的には行き詰っている状況だ。
他のライバルファミリーは、どんどん『薬物ビジネス』に参入し力(金)を得ている。
そして、さらに大きくする為に政治家を何とか動かしたいのである。
しかし、その政治家を抑えているドン・コルレオーネは『薬物ビジネス』には断固反対する。
そんなドンに会談をセッティングして口説き落とそうとするタッタリアファミリーのソロッツォ。
お互い手の探り合いだったが、長男のソニーが失言をしてしまう。
それは、「金になるならやってもいいじゃん」的な発言だ。
この発言によりコルレオーネファミリーは内部の意見が一致していないことを悟る。
つまり、長男ソニーが乗り気であれば、反対する人物さえいなくなればよいのである。
それがドン・コルレオーネの襲撃に繋がるのだ。
ソニーの失言後に微妙に変化するそれぞれの細かい表情が凄い。
マイケルの資質
ドン・コルレオーネから三男のマイケルにバトンが渡されるのが、この映画の見どころの一つだ。
マイケルは大学を中退し、海軍に入り活躍したインテリ。
そんな『表』で活躍したマイケルが、徐々に『裏』で活躍するのだから皮肉である。
マイケルの『適正』は早い段階から描かれる。
まずは、父(ドン・コルレオーネ)が入院している病院の警備シーンだ。
ある時、父のお見舞いにいくと警備が一人もいなかった。
警備に当たっていた警察官が買収されていたのだ。
このままでは、ドン・コルレオーネがトドメを刺されてしまう。
そこで、たまたまお見舞いに来てくれたパン屋と、マフィアを装い入口を守るのである。
案の定、それらしい車が訪れたが、マイケルの機転で計画は未遂に終わるのだった。
恐怖のあまり手が震えてタバコに火が付かないパン屋。
そんなパン屋に対して、落ち着いた手でタバコに火を付けてあげるマイケル。
マイケルもこういった経験は初めてのはずなのに、これほど落ち着いているのである。
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アポロニアと結婚、しかし悲劇が…
マイケルは、父を襲撃したソロッツォと買収された警察官の復讐を果たす。
自分の手で、2人を射殺したのであった。
そして、そこからシチリアで逃亡生活を送るのである。
そんな中、アポロニアと出会い結婚をする。
父の復讐も果たし、ニューヨーク(マフィアの世界)には戻らない決意だったのだ。
静かな夫婦生活を送るはずだったが、そこに届いたのは、なんと長男ソニーの悲報。
身の危険を感じ、アポロニアと身を隠す計画を立てた矢先、こんどはアポロニアが乗り込んだ車が爆発。
ボディーガードの裏切りにより、一瞬で妻を失ってしまったのだった…
マイケルの覚醒
これ以上の被害を出すべきではないと判断したドン・コルレオーネは、『薬物ビジネス』を条件付きで容認し、五大ファミリーと和解する。
これによりソロッツォを射殺したマイケルもニューヨークに戻ってくることが出来た。
そんな中、会談の雰囲気で最大の黒幕がバルジーニであることを確信するドン・コルレオーネ。
そして、先がないドン・コルレオーネは後継者をマイケルに任命する。
描写は少ないが、この時マイケルに帝王学や、今後のアドバイスを行っている。
どんな世界でもそうだが、トップがいなくなった組織は脆くなる。
ドン・コルレオーネが襲撃され、入院しているだけで、まったく別物の組織になってしまったように・・・
だからこそ、他の五大ファミリーのボスたちはドン・コルレオーネのいなくなった時を虎視眈々と狙っているのだ。
スポンサーリンクこれまでの勢力図を変えるチャンスだからである。
当然だが、身内で裏切り者が出てくる可能性も高い。
裏切りは散々経験してきたマイケル。信頼していた人間も状況によって簡単に裏切る世界なのだ。
そこで、マイケルはまず身内を『ふるいにかける』のである。
忠誠心がある者、裏切る可能性がある者。
まだマフィアとしての実績がほとんどないマイケル。
舐められて当然である。
しかし、それを逆に利用するのであった。
古い仲であったテシオがバルジーニとの会談をセッティングすることで、テシオの裏切りと、バルジーニがマイケル殺害を計画している裏付けを取った。
そして、忠誠心のある部下だけを集め、少数精鋭部隊を作り、なんと他の5大ファミリーのボスを襲撃するのであった。
他のボスも結局はバルジーニと内通しており、どのみちマイケルの命を狙っているのである。
だからこそ、敵が油断しているであろう、自分がゴッドファーザー(妹の子供の名付け親)となった日に5大ファミリーの襲撃を行ったのだ。
コニーの子供が教会で洗礼を受ける中での襲撃は衝撃的だ。
マイケルの氷のような精神が見事に演出されている。
そしてこの奇襲作戦により、脅威を消し去り、マイケルの実力を世に知らしめ、コルレオーネファミリーの威厳をまた高めていくのである。
芸術的なラスト
妹の夫であるカルロがバルジーニと内通しており、コニーへの暴力もソニーを消す計画だった裏付けを取る。
そんなカルロをマイケルは当然消す。
夫を殺したのはマイケルだと確信したコニーは、狂乱しながら問い詰める。
それを見ていたマイケルの妻ケイは問う。
「殺したの?」
しばらく間をあけ、まっすぐな目でケイに答える。
「ノー」
たった数秒のシーンだが、ここにこの映画の全てが集約されているといっても過言ではないだろう。
そしてそのすぐ後、2人の男がマイケルに忠誠を誓う所をケイに見れらないように幹部がドアを閉め終幕する。
完璧なラストである。
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