※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。
この映画は問題作である!
というのは、実は超ドSと超ドMの単純な話なのだが、何とも言えない「希望」を持たせることに成功している。
『何とも言えない希望』とは、超ドS講師が「本当はいいヤツなんでしょ」という希望だ。
飴と鞭の、かすかな飴の表現が絶妙なのである。
「ん?この講師は、あえて嫌われ役をやっているのか?」
「生徒の力を引き出す為に厳しい事をするが、いい先生なのか?」
などなど、観ている側は色々想像してしまう。
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結局は、ただのサディストなのだが、魔術的な魅力があるのである!
そう!この映画の1番の見所は、鬼講師の隠れた魅力なのだ!
厳し過ぎる先生と認識しながらも、最後まで「実はいいヤツかも」と思わせる魅力があることが、この映画に奥行を持たせている。
それらを表現している背景が随所散りばめられている所がまたにくい(笑)
例えば、才能のあった生徒の死だ。
かつての教え子で、優れた才能があった生徒が死んだ時、この鬼軍曹は涙をみせた。
しかし、逆に才能のない生徒の死は、一切悲しまない。
行き過ぎた指導によって、「うつ病」となってしまった生徒の死は、悔やむこともなく自分を正当化するほどのゲスぶりだ。
ただ、この極端さが皮肉にも魅力を際立たせているである。
・超ハードな練習についてきた主人公
・事故で血まみれになりながら演奏しようとした主人公
こういった無理難題にもついてきた主人公を、一切褒めない。
「お前は良くやった・・・ゆっくり休め」などの包み込むような愛は一切ないのである。
しかし、最後の最後で主人公の才能が爆発した瞬間、主従関係が入れ替わるどんでん返しが秀逸だ。
相手の才能を認めたとき、素直に従うという可愛さがあるのである。
この最後の最後で、また魅力を演出するセンス(笑)
楽譜は誰が隠した?
主人公がバンドのレギュラーを勝ち取る場面で、それまでレギュラーだった自分の楽譜をなくすシーンがある。
これにより、主人公がレギュラーになるのだが、この場面がセンスの塊なのである。
というのは、「もしかしたら誰々が・・・」とイメージさせることに成功させたからだ。
もしかしたら、主人公が自ら隠したのかもしれない・・・
もしかしたら、鬼軍曹が主人公の為に隠したのかもしれない・・・
単純に掃除の人がもっていってしまったのかもしれない・・・
この場面はノーヒントとなっており、誰が隠したのか結局はわからない。
ただ主人公がレギュラーを勝ち取る為のシーンであるなら、掃除の人が間違えてもっていく描画を見せれば済むことである。
しかし、そうはせず、誰が持って行ったのかわからなくしている。
つまり、ここでも鬼軍曹が「いいヤツかも」という可能性を視聴者に持たせているのである。
意味を持たせてしまう面白さ
この様に、実はただのドS講師とドM生徒の単純な話なのだが、随所にドS講師の期待を散りばめているところが面白さの秘密だ。
・いじめることに快感を得るサディスト
・ただし、本当に才能ある人間には屈服する
人間的な尊敬は感じないが、アンバランスな『平等』があり、どこか憎めない存在。
それが、アカデミー助演男優賞を受賞したキャラ設定なのである。
また、主役のマイルズ・テラーはこの映画の為に毎日3~4時間ドラムの練習をし、それを2か月間続け撮影に臨んだそうだ。
通常、手だけ別の演奏家が担当したりするが、本作ではマイルズ・テラーが本当にドラムを叩いているのである。
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