※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。
『ノーカントリー』は「難解」という意見も多いが、ストーリー的には超シンプルである。
麻薬取引の金をガメた男を、殺し屋が追いかけるだけの話である。
しかし、この映画は『演出』をメインテーマにしており、本来はシンプルなところを『演出』で表現することにより映画の表現方法の次元を押し上げているのだ。
例えば、モスの妻を探し出すシガー。コインで運命を決めさせる。
しかし、銃声もなくシガーは家から出ていく。
視聴者は「どっちだった?始末したのか?」と疑問を持つが、シガーが足の裏を何度か確認することで始末したことがわかる。
普通の映画の場合、そのシーンは見せずに銃声だけを聞かせることはあるが、この映画ではさらに表現方法を上げているのだ。
つまり「超関節的説明」である。
この様に、映画の表現をあえて崩すことで、斬新な作品にしているのである。
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ルールを厳守するシガー
『ノーカントリー』最大の見どころはハビエル・バルデム演じる殺し屋アントン・シガーであろう。
こいつが、とにかく不気味なのだ。
まず、風貌。
マッシュルームヘアーで感情がない表情。
さらに、武器。
酸素ボンベのようなタンクを持ち歩き、圧縮空気を発射して始末する。(家畜銃ピストル)
この独特の武器にヤラれてしまうのである(笑)
コイツにだけは狙われたくないと思うほど、不気味さと狂気が相乗効果を生み出す。
そして、この男は「ルールを破る奴は許さない」というルールがある。
これが面白い。
お店のオヤジは営業時間を変更しようとした為、シガーのルールに反してしまう。
これにより、コイントスを迫られる。
そして、モスの住む家の管理人のおばさんは「個人情報は教えられない」とつっぱねる。
シガーは3度も聞くのだが、つっぱねる。
ここが素晴らしい演出だ。だって、これまで散々人を始末してきたシガーなので、このおばさんも始末されてしまうと普通は思う。
しかし、シガーは何ごともなく帰っていく。
つまり、おばさんはルールを守ったのである。だからコイントスもなくシガーは退散するしかないのだ。
なんだこの「超関節的説明」は(笑)
ここまでガンガン始末してきたシガーだが、実は自分なりのルールがあり、それを実行していただけであったのだ。
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ウェルズの「階数」や「駐車券」の意味は?
そして、シガーの他にも実は重要なキャラがいて、それがもう一人の殺し屋ウェルズである。
このウェルズのキャラ設定も中々である。
物語の後半で、ウェルズはモスが隠したカバンを見つける。
しかし、それを拾わない。
拾って、依頼主に渡せばそれで仕事が片付くのに。
なぜか?
ウェルズにも自分のルールがあるからである。
モスがそのカバンを渡すことで、身を守るというルールが発動するのだ。
シガーとウェルズが対面した時に、シガーは言う。「お前の従うルールのせいでこうなったのなら、ルールは必要か?」
そしてウェルズはこう答える。「これがどれだけ異常か分かってるか?」
また、ウェルズは依頼を受けるときに「駐車券」と「ビルの階数」について話す。
これは、ウェルズのユーモアであり、シガーとの対比である。
「ビルの駐車券ある?」というジョーク。
そして、ビルの階数については13階が不吉な数字であり、多くのビルは13階を14階と表記することから、このようなジョークをいったのである。
依頼人はそれを「調べておく」と軽くあしらうのだ。
感覚で観る映画
この様に、本来は簡単なストーリーを普通の映画とは違う魅せ方で演出している。
セリフなどもほとんど噛みあわないので、難解である。
しかし、全てを理解する必要はなく、雰囲気を楽しめれば良い作品だと思う。
シガーのゾクゾクする怖い感じや、抽象的なセリフ。
そして、モスの実は冷静沈着で勇敢なキャラクター設定。
また、実は自分にも行動規約があって、それにより墓穴を掘ってしまうウェイズ。
などなど、感覚や質感で楽しむ映画なのである。
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