※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。
主人公のジョルジュはテレビキャスターとしてそこそこ成功をしている。
妻も出版関係の仕事をしていて、ティーンエイジャーの息子もいる。
自宅や食卓の雰囲気から、裕福で幸せな家庭とわかる。
しかし、一つのトラブルを抱えていた。
それは、何者かから送られてきた一本のビデオテープだ。
そのビデオテープには、ジョルジュの自宅が映し出されており、それが淡々と続くのである。
このビデオテープの中身がオープニングとなり、なんの展開もないシーンに「あれっ?」と戸惑うのである。
そして、この映画はビデオテープを送った犯人を探す内容なのか?と思うのだが、実はそれ自体がミスリードである。
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犯人は誰?
恐らくこの映画は犯人捜しが目的ではない。
監督が描きたかった真実から目をそらすためのトリックなのだ。
では、監督が描きたかったテーマとは何か?
それはタイトル『隠された記憶』である。
ジョルジュの隠された記憶?
違う・・・
『あなた』のだ。
つまり、観ている人の『隠された記憶』を呼び出そうとしているわけである。
それは戒めなのか?それとも償いか?後ろめたさか?
または、主人公のように悔い改めるきっかけか?
人間は成功や、自分の思い描く人生を手に入れようと日夜進んでいく。
そして、それを手に入れた時、過去は都合よく忘れてしまう。
隠しておきたい記憶は誰にでもあるはずだ。
できれば、それを閉まったまま忘れたい記憶もあるだろう。
それを、この映画では引き出してしまうのである。
ジョルジュは、途中で昔の記憶を思い出そうとした。
しかし、意図的にそれを避けようとする。
だからこそ、妻にも話さない。
この辺から視聴者も様々な隠された記憶を思い出そうとする。
ボクも物心ついた時からの記憶をどんどん思い出そうとした。
ただ、思い出したくない記憶も当然ある。
そこで目を背けようとするのだ。主人公ジョルジュのように。
主人公と同時進行で進むのである。
そしてある時、疑っていたマジッドに呼び出されるジョルジュ。
すると急に喉を切ってしまうマジッド。
このショッキングなシーンによって、忘れようとしていた隠したかった記憶が引き出されてしまうのだ。
スポンサーリンクぶっちゃけ、犯人は誰でもいい。
というか、そんなもの最初からいない。
視聴者それぞれの隠したい記憶を引き出し、それに向き合わせるのが監督の目的なのである。
そして、それが主人公と同じような感情で進むことが、この映画の凄いことなのだ。
隠したかった記憶を少し思い出そうとするが、無意識にそれをブロックする。
しかし、あの喉を切るシーンによってフラッシュバックしてしまうのだ。
そして、それを引き出された視聴者は、主人公と同じように後ろめたい気持ちを思い出し、それを消化する為に次のステップを考えなければならなくなる。
それは、善行かもしれないし、電話をするとか、手紙を送るとか、人によって異なるはずだ。
しかし、それにより、心が救われる可能性もある。
主人公はバッドエンディングだったが、視聴者は違う。
それを浄化できるかもしれないのだ。
ボクはこの映画をみて、小学生だった頃の友達を思い出した。
少し後ろめたい思い出があったからだ。
この映画を観て、何人かの人は無意識にこういった感情が引き出されたと思う。
そして、その象徴となるのが後半で発覚する妻の浮気である。
これはつまり、妻も現在進行形で『隠された記憶』を作っているわけである。
これらを全て計算で行っているのだからミヒャエル・ハネケ監督は凄まじい人物だ。
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