※この記事には作品の感想(ネタバレ)が書かれておりますのでご注意ください。
アカデミー賞主要5部門受賞という快挙を達成したミステリーの金字塔『羊たちの沈黙』。
単なる犯人捜しではなく、精神病院に収監されている天才精神科医に助言を求めるという設定が最大の魅力である。
難航している事件解決の糸口を、殺人事件の犯人に依頼するのである。
しかも、ただの殺人事件ではなく、9人を殺害した後『食べた』というサイコパスな精神科医。
それがハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)である。
このハンニバル・レクター博士の力を借りて、事件解決を目指すのが主人公クラリス(ジョディ・フォスター)だ。
この『収監されている天才犯罪者と協力する』という設定は、この後様々な作品に真似されるようになる。
例えば、ミステリーとは関係ない格闘漫画グラップラー刃牙に登場する『ビスケット・オリバ』なども同じ設定だ。
この様に、『収監されている天才犯罪者と協力する』というのは一種の発明である。
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バッファロービルの動機とは?
ストーリーの中心である連続殺人事件。
犯人は『バッファロー・ビル』と呼ばれ、手掛かりがなく警察はお手上げ状態であった。
そんな中、主人公のクラリスはハンニバル・レクターに助言を求める。
ハンニバルは調査書に目を通し、犯人の特徴を分析していく。
天才精神科医は『バッファロー・ビル』の動機に早期に気づいていく。
それは『変身願望』である。
同じような体型の白人女性を襲いその皮を剥ぐ。
つまり、自分がなりたい女性像に近づけるためなのである。
最初は女装などで気を紛らわせていたが、目はいつも欲しいものを追い求める。
最終的にはなりたい女性像にリアルに近づく為に、本物の皮で外見を完璧にしたかったのである。
めちゃくちゃサイコパスなのだ。
そして、生まれ変わりの象徴でもある『サナギ』。
そのサナギを飼うことで、希望を夢見ていたのであろう。
このバッファロー・ビルの動機の明確な描写はない。
ただ、こういった手がかりをもとに視聴者に考えさせることで、この猟奇的な恐ろしさを見事に想像させるのだ。
ラストはどうなった?
事件解決に大きく貢献したクラリスは正式にFBI捜査官となった。
そんな中、ハンニバル・レスターからクラリスに電話が入る。
それは事件解決&FBIになった祝福の電話であった。
そして「小羊たちの悲鳴はやんだか?」と語る。
この異常な紳士的な行動もハンニバルの魅力であろう。
さらに、「これから古い友人を食事に・・・」といって電話を切る。
次にチルトン医師が映る。
これはつまりチルトン医師への復讐であり、「これから古い友人を食事に・・・」というのが鳥肌ものだ。
「これから古い友人と食事に・・・」ではなく、「これから古い友人を食事に・・・」なのである。
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レスターの脱獄
(このドア越しに見せるシルエットが秀逸!)
ハンニバル・レクターの脱獄シーンは見どころの1つであろう。
2人の警察官の隙をつき脱獄を果たす。
その手口もおぞましい・・・
一人は胸を裂かれ、宙につられた状態。(サナギと蝶のメタファ)
そして、もう一人は顔の皮を剥がれ、それをレクターが被り逃走するのだ。(犯人へのメタファ)
この様に、殺人を芸術のように仕立てるハンニバル・レクター。
しかも、天才的知能と紳士的態度をあわせ持つから余計に怖いのである。
クラリスVSバッフォロー・ビル
後半、単身でバッフォロー・ビルの自宅へ踏み込んでしまったクラリス。
この前のシーンでは、上司であるジャックや他の捜査官が犯人の家に乗り込む。
この同時進行で写す手法(カットバック)はお見事。
そして、クラリスが踏み込んだ家こそバッファロー・ビルが滞在していた場所だったのだ。
この安心感から、いっきに不安になる展開はゾクゾクする。
そして、単身でバッファロー・ビルと戦うのである。
電気を全部消され、まっくらの中、バッファロー・ビルのナイトスコープがより一層恐怖を引き立てる。
そういえばナイトスコープの伏線も、しっかりあったなぁ~と気づかされる。
そして、FBIの訓練の伏線もここで回収され、無事に事件を解決するのである。
ミステリーのお手本
この映画を観てから、他のミステリー作品を観ると、やはりその影響力がわかる。
それくらいミステリーのバイブル的な存在なのであろう。
『SAWシリーズ』のジグソウも少なからずレクターの影響は受けているはずだし、『魅力のあるサイコパスが活躍する映画』は、これからどんどん出てくる。
この様に、ミステリーのゴールを達成してしまった『羊たちの沈黙』。
内容も、タイトルも、表紙も、全てが高水準であり、何年経っても色あせない傑作ミステリーなのだ。
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